東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)289号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。
審決は、「本願発明はデフレクタ内の案内路を直線溝と特定していない」としたうえ、本願発明と引用例のものとを対比して、「結局、本願発明要旨のうちで引用例に記載されていない点は、デフレクタの案内路の入口及び出口を、支持線(7)が不連続となるように、いわば、角ばつた形状にした点だけにすぎない。」とする。
ところで、成立について争いのない甲第七号証によれば、本願発明の願書に添付された明細書の特許請求の範囲には、「案内路側壁(4a)が不連続個所(10)と向きあつた、これに隣接する端部範囲(12)において、後続する支持線(7)に対して平行に折曲げられている」と記載されていることが認められる。
右記載の意味するところは必ずしも一義的に明瞭であるとはいえないが、ともかくも「案内路側壁(4a)が、……後続する支持線(7)に対して平行に折曲げられている」と読むことができ、しかして、「平行」とは、同一平面上の二直線がどこまで延長しても相交らないことであることは明らかであるから、特許請求の範囲中の右記載部分は、本願発明の案内路側壁(4a)が直線であることを示しているものというべきであり、発明の詳細な説明の項(甲第七号証第五頁第三行ないし第九行)及び添付図面にも案内路側壁が直線である旨が記載されている。
被告は、本願発明の特許請求の範囲における右「案内路側壁(4a)が不連続個所(10)と向きあつた、これに隣接する端部範囲(12)において、後続する支持線(7)に対して平行に折曲げられている」とある部分における「平行」とは、案内路側壁のうち入口及び出口における両側壁相互のみであつて、案内路の両側壁がその全長にわたつて直線状であることを意味するものではないとの趣旨を主張する。被告のこの解釈は、おそらく、案内路側壁が「端部範囲(12)において」平行に折曲げられていると記載されていること、すなわち、「範囲」とは、ある長さをもつた意であると解することによるものと思われる。なるほど、特許請求の範囲に右のごとき語を使用することは、請求の範囲の記載全体の意味をあいまいにするものであり、また、誤解を招き易い。しかし、発明の詳細な説明の項には、右「端部範囲(12)」がいかなるものであるかは説明されておらず、「(12)」については「点(12)」(甲第七号証第一〇頁第三行)と記載されているのみであり、これによれば、特許請求の範囲における「端部範囲(12)」とは、一見ある長さをもつたものを想像させはするが、実は単なる「点」にすぎない(添附第一図面参照)と解釈できるものであり、したがつて、「端部範囲(12)」がある長さを有するものであることを前提とする被告の前記主張は、これを採ることを得ない。
右のとおりであるから、本願発明は案内路側壁を直線溝であると特定していないとして、本願発明と引用例とを比較した審決は、両者の相違点を看過した違法のものというべきである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ボールスクリユ式スピンドルナツトであつて、ボールを戻し案内するために、スピンドル軸線に対してほぼ垂直に延びる案内路側壁を有する案内路が設けられている少なくとも一つのデフレクタを有していて、このデフレクタがナツトのねじ溝に挿込まれるようになつている形式のものにおいて、スピンドルナツト(1)のねじ溝のその都度の回転方向で負荷を支える支持線(7)が、デフレクタ(2)にボール(14)が走入する範囲並びにデフレクタからボール(14)が走出する範囲で、それぞれ不連続個所(10)を形成する傾斜面又はスピンドル軸線に対して垂直に延びる面によつて中断されており、この場合ボールがナツト側の支持線(7)から離れるとき又はこの支持線(7)に再び接触するときに、ボールが支持線の一点(10)と、スピンドル軸線に対して垂直に延びる案内路側壁(4a)の一点(8)と、案内路側壁(4a)に対してほぼ垂直に延びる案内路底面(4)の一点(11)とに同時に接触するようになつており、更にデフレクタ(2)の、スピンドル軸線に対して垂直に延びる案内路側壁(4a)が、前記不連続個所(10)と向きあつた、これに隣接する端部範囲(12)において、後続する支持線(7)に対して平行に折曲げられていることを特徴とする、ボールスクリユ式スピンドルナツト。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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